
私は、約20年前にアメリカから日本へ引っ越して来ました。当初は3年ぐらい日本で生活を楽しんでアメリカへ帰るつもりでいましたが、気が付けばもう20年近く日本に住み続けています。日本に住んで初めの頃、私の周りにはとても親切な日本人がたくさんいて、ある方には Consideration(思いやり)、Thoughtfulness(心遣い)を教えてもらいました。その頃の私にとって日本は、「Ozの魔法使い」の「Oz」そのものだったのです。そして、違った生活観や生き方を発見する場所でもあったのです。
来日後しばらくして、私に日本の童謡を英訳してほしいという依頼が来ました。その頃の私には、童謡というものが何なのかまったくわかりませんでしたが、日本語が話せるアメリカ人のソングライターということで依頼が来たようです。最初の依頼曲は“My Country Home”(故郷)、“Dragonflies”(赤とんぼ)、“Come Walk Along the Shore”(浜辺の歌)などでした。
最初に歌を聞いたとき、歌詞の意味に混乱し悩んだものもあります。例えば、「故郷」の最初のフレーズ「兎追いし かの山」は、「子供の頃食べた兎がオイシかった?」のだと思いました。でも、さまざまな童謡を辞書で地道に一語一語訳したり、周りの日本人に言葉の意味を聞いたりして全体の意味が理解できてくると、そこに込められた繊細で美しいメッセージやメロディーに何度も心を動かされました。そして、2つの大切なことに気付かされました。
ひとつは、日本人は童謡を聞くと、自分のおじいさん・おばあさんや両親を思い出すこと、泣いたり笑ったりすること、子供の頃に童謡を教えてくれた人を思い出すこと…。つまり、童謡は日本人の心に残っている「大切なもの」なのだということに、歌を訳して初めて気が付きました。
2つめは、童謡の解釈には個人差があるということ。ある地方出身の方は、「故郷」を聞いて自分の故郷を最初に思い浮かべました。ある都会生まれの方は、故郷への憧れを口にしました。皆さんの育った環境にはもちろん違いがあるため、さまざまな聞き取り方があるのだということを改めて理解しました。童謡には、人々が育った場所などは関係なく、誰にでも(外国人にも)受け入れられる普遍性が備わっています。そして、美しい日本人の「心」が息づいています。そのような要素をもっている童謡はすばらしいの一言に尽きる、と私は強く思います。
以前、日本のあるお寺で「故郷」を歌う機会がありました。歌い終わって、お坊さんに故郷の意味を問いただすとこんな返答をいただきました。「故郷は天国または悟りという意味で、人間はいつも故郷に戻ることに憧れ、原点に戻るという意味なのです。」と教えてくださいました。これは何か仏教の教えと関係があるのでしょうか? とても考えさせられました。
「故郷」の中でもっとも重要な言葉は「志をはたして」という最後の歌詞ですが、私たちはこの言葉を一生かけて味わう必要があるのでしょう。長い人生を生きる中で、この意味が本当に理解できるのだと思います。私もいつか志を果たしてアメリカへ帰ろうと思っています。でも、“Home is where the heart is.(故郷とは心を残してきた場所)”。私の心は今、日本にあります。あなたの心は今、どこにありますか?
※このコラムをきっかけにぜひ英語でも「故郷」をお聞きいただき、ご自身の“Home sweet Home(愛しい我が家)”について思いを巡らせていただけたらと思います。 こちらで試聴が可能です。 http://www.akuamusic.com
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My Country Home
English Words by Greg Irwin
Back in the mountains I knew as a child
Fish filled the rivers and rabbits ran wild
Memories, I carry these, wherever I may roam
I hear it calling me, my country home
Mother and Father, how I miss you now
How are my friends I lost touch with somehow?
When the rain falls or the wind blows
I feel so alone
I hear it calling me, my country home
I’ve got a dream and it keeps me away
When it comes true, I’ll go back there someday
Crystal waters, mighty mountains
Shining like an emerald stone
I hear it calling me, my country home
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故郷
(作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一)
兎追いし かの山
小鮒釣りし かの川
夢は今も めぐりて
忘れがたき 故郷
如何(いか)にいます 父母
恙(つつが)なしや 友がき
雨に風に つけても
思い出ずる 故郷
志(こころざし)を はたして
いつの日にか 帰らん
山は青き 故郷
水は清き 故郷
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※コラムや英語の童謡へのご感想をお聞かせください。

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日本の童謡・唱歌を自らの視点で英訳し、100曲以上手がけている。日本各地でコンサート等の活動を行う他、テレビ・ラジオ・声優・司会など幅広い活動を行う。2002年に日本童謡協会『童謡文化賞』を受賞。2004年には舞台「お江戸でござる」「のど自慢」に出演。現在発売中のCD「Gentle Heart」(Akua Music)では多くの人の心の中に癒しと感動を与える。また、中学校副読本2(道徳)に本人が英訳した「紅葉」が掲載。現在、ランダムハウス講談社からCD付絵本『グレッグ・アーウィンの英語で歌う、日本の童謡』が好評発売中。DHC通信講座「日本人のためのリスニング講座〜発音上手は聞き上手〜」ではナビゲーター役を務める。
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