


辞書として世に問おうという気持ちにさせた根底は、日々の翻訳作業で生じるさまざまなトラブルが原因でした。 私は和英翻訳をしているのですが、せっかく作成した英文を、リライタが業界の表現を知らないがために不適切に直すことがたまにあったり、日本人の依頼主が徹底的に好みの日本人英語に書き替えてしまったりすることがあり、そういう時、根拠になる用例というのが一般の辞書などでは見つからなくて、「ネイテイヴでもその分野に詳しくない人だと、こちらが作った英文を間違って直してしまうことがある。そんなとき、もっと実務的な辞書があれば、相手を説得することもできるのに」と日々考えていました。
他の翻訳者にも仕事を依頼して翻訳するようなときでも、共通のデータベースとしての辞書があれば、後で大幅な直しをしなければならないような見当違いの訳が生まれる可能性を防げる。もっと翻訳の現場にいる人間にとって役に立つ、生きている言葉の用例をふんだんに盛り込んだ辞書を作りたいという強い思いがあり、本業の翻訳を休んでまでも辞書作りをしようと思ったのがそもそものきっかけですね。

翻訳業のかたわら、いつもTIMEや海外の文献から使えそうな英文の用例を見つけると、自分の勉強のためにノートに書き溜め、気づくと1982年から93年までの11年間で数十冊にもなっていました。単行本でもいいから出版してみようと思い、出版社に企画を持ち込んでみましたが、用例の編集作業が進む一方で、受け入れ先はなかなか決まらず、本業でもある翻訳をストップしていましたので、貯金はなくなり、結構大変でした。
最初の頃は大手出版社に企画を持ち込んでたのですが、出版するかどうかを検討していただくのに時間は掛かるし、著名な監修者が必要だと言われたり、英和・和英それぞれ数万円という定価でないと出せないと言われたりと、とにかく時間がかかる。
時間的、金銭的にも限界でしたので、ある日、新聞社にこの辞書の企画について手紙を送ったのです。そしたら記事として取り上げてもらえることになり、掲載された翌日に日外アソシエーツさんからお電話をいただきました。それも五八○○円という低価格でしかも現在は用例が多くなり、英和、和英と分かれていますが、その当時は英和、和英を一冊にまとめて出せるという条件でした。それまでの難航が嘘のようで、決まったときは嬉しかったですね。
『何万円もするような辞書では一般の人に買ってもらえませんからね。産業英語というと特殊な英語だと思われているようなんですが、そうではなくて普通の英語なんだということを一般の人にも知ってもらいたいということもありましたから、この価格でできるということは重要でした』と文男さん。

現在、第4版まで刊行しましたが、まだまだ現在の内容には飽きたりません。『用例に関しても、もっといい例があったのではないかと思えるものがいくつかあったり、語句の選択や解説にも不満が残るものも結構あります。もっとコンパクトにまとめたい』と和子さん。これほど膨大な量をほとんど二人だけで時間に追われながら校正してきましたので、校正ミスが気にかかります。
『間違いや、変な用例だと思われるものがあったら、ぜひ教えていただきたい。』と文男さん。
この言葉から、この辞書に対する強い思い入れが伝わってくる、扱う用例も初版は7万語だったのが第4版では19万語までとなった。なんとしてでも、さらに充実した改訂版が誕生するように、この辞書が翻訳者や翻訳を学ぶ人、またビジネスで英語を必要とする人まで、多くの人にとってなくてはならない辞書となることを願わずにはいられない。

文男さんから。
「最初に就職した外資系電気業界で、仕事の能力はあるのに英語ができないために冷遇されていた人を見てきました。翻訳家の方だけでなく、少しでもそんなビジネスの第一線で活躍なされている方にもこの辞書を使っていただき、役立ててもらえたらと思います。また私自身も英語が出来るようになりたくて翻訳を始めましたので皆さんもあきらめないで是非頑張って下さい」
次ぎに和子さんから。
「用例づくりから始まった辞書なので、一般の辞書にある見出し語がない場合もあります。だからこの辞書ですべては事足りるわけではありません。英語の基礎が出来たらすぐ実践で使っていける、そんな実用的な辞書作りを目指しました。この辞書で是非、生の英語に触れて下さい」

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