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Interview room

英語業界人に聞く vol.14

翻訳家、舞踊評論家、精神分析研究者 鈴木晶さん 写真

翻訳家、舞踊評論家、精神分析研究者 鈴木晶さん Translator, Dance critic, Psychoanalyst: Sho Suzuki

「私はヨコのものを見るとタテにしたくなるんです(笑)。英語を読んでいるとつい、「これを日本語で言ったらどうなるだろう」と考えてしまう。一種の習性のようなものですね。」

ノンフィクションを中心に80冊を超える訳書を出す一方で、舞踊評論家であり、精神分析研究家であり、またグリム童話の分析も手がける鈴木晶さん。映画『ブラザーズ・グリム』の公開で、世間のグリム童話への関心も再び高まっているなか、多才な鈴木さんに、翻訳と舞踊・精神分析・童話分析がどのように結びついているのかうかがった。

どのようなきっかけで翻訳を始めたのですか?

大学生のときに小説を書いていて、プロの方に見ていただこうと、作家の高橋たか子さんのところに持っていったんです。特に知り合いだったというわけではなく、私が読者で、電話したらたまたま会ってくださったんですが。高橋さんは翻訳もやっていらしたので、「小説よりも翻訳をやってみないか」と言われ、手伝いで下訳をやることになりました。それが、そもそもの始まりでした。

ちょうどその頃SF文庫を創刊する出版社があり、紹介されてSFの翻訳をやったりもしました。生活費を稼ぐために、ロマンス小説を手がけたこともあります。そういった仕事がつまらないというわけではなかったのですが、自分の関心が次第に舞踊評論や精神分析など違う方向へ移っていって、翻訳も必然的にそういうジャンルのものが多くなっていきました。

英語はどのように身につけたのですか?

まず、育った環境によるところが大きいと思います。実家は町工場を経営していたのですが、何度も倒産の憂き目にあって、父は倒産するたびに、海外の科学雑誌の記事を翻訳する仕事をしていました。英仏独の三カ国語がいちおうできたようです。父はもともと語学が好きだったようで、家には洋書がたくさんありました。また父はクリスチャンで、私は小学生のとき、近くの修道院でイギリス人のシスターに英語を習っていたりもしました。

中学生のとき、フランス語を習いたくなって語学学校に通っていました。高校では補習でドイツ語の授業を受け、「英仏独の次はロシア語だろう」と、大学ではロシア語を専攻したんです。今、舞踊や精神分析の研究をするにあたり、英語・フランス語・ドイツ語・ロシア語が読めることは、非常に役立っていますね。

外国語を効率よく身につけるには、どうしたらいいのでしょうか?

語学の習得は、やはりある程度時間がかかるものです。よく、「英語学校に通ったり留学したりすればすぐにできるようになる」と思っている人がいますが、翻訳家になろうというなら、それだけではダメですね。原書をたくさん読んで、英語の文の構造をしっかり把握できるようにならないと。よく受験英語には弊害があると言いますが、私は、受験英語で身につけた文法は、英語を正確に読むうえで非常に重要であると思っています。逆に、受験英語をしっかりやっていなかった人は、そのあと苦労するでしょうね。

以前、翻訳学校で教えていたことがあるんですが、生徒さんたちのなかには、日本語の文章の書き方を学びにきているという人が多かったようです。そういう人は、一見きれいな訳文が書けるんですが、よく読んでみると、ところどころ意味が違っていたりしたものです。原文をちゃんと読めていないからです。翻訳家を志すなら、まず「語学力」、「読解力」。それを磨くには、学校時代に習った文法を、もう一度見直してみてください。

翻訳からどのようにお仕事の幅を広げていったのですか?

最初から語学以外にもいろいろと興味があったんです。舞踊に関心があるのは、日本舞踊を教えていた母の影響が大きいと思います。今はバレエの評論をすることが多いのですが、バレエをよく見るようになったのは、結婚して妻と一緒に見に行くようになってから。元々、大学では19世紀末から20世紀初頭のロシア文学を専門としていたんですが、これは当時、一時代を築いたロシア・バレエ団の団長セルゲイ・ディアギレフが活躍した時代。自分でも興味を持って研究するようになり、そのうち評論を書いたり、大学で舞踊の文化について教えたりするようになりました。

精神分析にも、大学時代から興味があったんです。フロイトについて、作家・心理学者である岸田秀先生のもとで個人的に学んだり、ユングの研究家である秋山さと子先生に学んだりしました。一見、いろいろと違うことをやっているように見えるかもしれませんが、精神分析は人間の「心」のことで、舞踊は「体」のこと。結局はつながっているものだと思います。

グリム童話に関心を持つようになったのは?

1980年代、グリム兄弟の生誕200年ということで、海外ではグリム兄弟に関する研究書がかなりたくさん出ました。その波が日本に少し遅れてやってきて、私もいくつか翻訳書を出しました。その頃、出版社から精神分析についての本を書くよう頼まれていたのですが、なかなか筆が進まず、「今ちょうど調べているグリム童話ではどうでしょうか」と言って出したのが、『グリム童話/メルヘンの深層』(講談社現代新書*品切れ)です。

グリム童話には元々暴力や残虐な描写があったことが知られていますが、これは、物語が書かれた時代の影響によるところが大きいのです。よく、童話は長いこと語り継がれてきた「民衆の知恵の結晶」だからそのまま伝えるのがいい、と言われたりしますが、グリム童話について言えば、これは、グリム兄弟の創作なので、そうとも言えません。そういった個人の創作がなぜ今日まで綿々と読みつがれているのか、ご興味のある方は、本の内容を紹介した私のホームページをご覧になってみてください。

どのお仕事を一番のご専門とされているのですか?

私の場合、すべてが専門であり趣味であり、好きなことをやっていたら自然にこうなったという感じです。ただ、翻訳の仕事は私に向いていると思うんです。ヨコのものを見ると、タテにしたくなるんですよ(笑)。たとえ仕事でなくても、英語を読んでいるとつい、「これを日本語で言ったらどうなるだろう」と考えてしまう。一種の習性のようなものですね。

私が翻訳の仕事で心がけているのは、基本的には「直訳主義」。直訳と言っても、原文と一言一句変わらずということではなく、原文の内容を反映させて過不足なく訳す、ということです。翻訳家の中には、自分で大胆に書き換えたり書き加えたりする人もいますが、変える必要のないものは、変えなくてもよいと思います。

また、私の訳す本の中には難解な内容のものもあるのですが、できるだけ読みやすく書くように心がけていると言いますか、私は読みにくい文というのが、書けないんです。非常に込み入った内容のものでも、どこをどう切るかといった工夫をすることで、だいぶ理解しやすくすることができます。テクニックもあるのかもしれませんが、長年翻訳をやっていると、どうすればいい日本語になるか、自然に浮かんでくるんですね。

海外で学んだご経験は?

大学に勤めるようになってから、家族を連れて1年半、イギリスに留学したことがあります。40歳過ぎてからのことですが、私にとっては初めての海外生活経験で、やはり本で読んでいるのと、実際に暮らしてみるのとではずいぶん違うことがわかり、いい勉強になりました。

そのとき気づいたのですが、しっかりとした英語の素養が身についていれば、ある程度の訓練できちんとした英語がしゃべれるようになるものです。よく「シャワーを浴びるように英語を聞くといい」と言いますが、大人はやはり、ただ聞くだけでなく、理論できちんと習得する必要があると思います。

感覚的に身につけた人は、ペラペラとあいさつしたりするのは得意かもしれませんが、そこから先に進んで、内容のあることをしっかりと話すところまでいくのが難しいんです。しゃべるのが上手になるのにも、英語の本をたくさん読むことは大事だと思いますよ。

取材・編集協力: eigoTown.com

Profile
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鈴木晶(すずき しょう)

東京大学文学部ロシア文学科卒業(博士課程単位取得満期退学)。在学中から翻訳の仕事を始め、やがて舞踊評論や精神分析に関する著作も手がけるようになる。現在、法政大学教授。著書に『バレエ誕生』(新書館)、『バレエの魔力』(講談社)、訳書に『小さな反逆者』(福音館書店)、『愛するということ』(紀伊國屋書店)、『死ぬ瞬間―死とその過程について』(中央公論新社)など。

ホームページ Sho's Bar http://www.shosbar.com/

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