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Interview room

英語業界人に聞く vol.12

灰島かりさん 写真

翻訳家・児童文学研究者 灰島かりさん Translator, Researcher; Kari Haijima

「単に数をこなすだけでなく、一冊を隅から隅までじっくり読むようにすると、その作品や英文の持つよさが、本の中から浮かび上がってくるかのように感じられるものです」

絵本や児童文学に関する翻訳を多数手がけ、大学で児童文学の講義も行っている灰島かりさん。『絵本翻訳教室へようこそ』という本を著し、絵本翻訳のテクニックを、初級者にもわかりやすく解説してくれた。そんな灰島さんに、児童文学の翻訳の世界や、絵本の翻訳者になるために必要なことについてうかがった。

翻訳の仕事はどのように始めたのですか?

大学を出て化粧品会社のPR誌の編集をしていたんですが、昔から子どもの本が好きで、「いつか子どもの本を作る仕事ができたら……」と考えていました。夫の仕事の都合でイギリスで暮らすようになったとき、ぜひこのチャンスを生かそうと、イギリスの大学院で児童文学の研究を始めたんです。

ちょうどそのころ、運よく知人から翻訳の仕事をしてみないかという誘いがありました。『猫語の教科書』(ポール・ギャリコ著/筑摩書房)という大人向けの本なのですが、子どもが読んでもおもしろい内容のものです。翻訳原稿はイギリスから出版社に送り、それが私の最初の訳書になりました。

イギリスではとにかく洋書をたくさん読みました。帰国するときに読みきれずに持ち帰った本が、ダンボール箱に何箱分もあったほどです。自分で訳したいものもあり、日本の出版社に持ち込みに行ったところ、先方から「この本の翻訳はどうですか」と渡されたのが、イギリスの児童向けの歴史小説作家ローズマリ・サトクリフの本でした。イギリスでサトクリフの作品を読み、その面白さに魅せられていたところだったので、「ぜひ私にやらせてください!」とお返事したんです。それが『ケルトの白馬』という本で、その後もサトクリフの作品の翻訳が続いています。

翻訳の勉強はどのようにされたのですか?

絵本の翻訳については、ルールやマニュアルのようなものがなかったので、自分で考えながら勉強していったところが多いですね。瀬田貞二さんや石井桃子さんはじめ、好きな翻訳家の翻訳と原文を読み比べて、「こういう英語をこういう日本語にするのか」と感心することが、とてもいい勉強になりました。

イギリスの大学院では1週間の間に何冊も本を読んで、それを基に学生の間でディスカッションをするという授業を受けていましたから、英語力はその間にかなり鍛えられたと思います。また、イギリスで生活している間、小学校に通う娘の送り迎えをしていたのですが、そこで耳にした親子の生の会話なども、大変参考になりました。

そう言えば、PR誌の仕事をしていたときに、雑誌のビジュアルがどうあるべきかということについて勉強していたのも、今、絵本の絵を読み解く助けになっていると思います。

絵本の翻訳で大事なことは?

絵本の言葉は絵と一体となっていなければならないので、翻訳するにも「絵を見る力」が必要なんです。例えば、英語の絵本は左から右へ進んでいくので、登場人物が左向きになっていると、ネガティブな状態を意味します。反対に、右、つまりページをめくる方向を向いているのは、ポジティブな表現なんです。

絵と文字は最終的には一緒にしてみないとわからないので、絵本翻訳を志している方は、自分で翻訳した原稿をプリントアウトして、原書の文字のところにうまくはまるように切って貼ってみるといいですよ。文章の長さや言葉の選び方など、絵と一体にすることで初めてわかることがたくさんあります。

言葉づかいは、いきいきとした息づかいを入れたいので、今の子どもたちが使っている言葉を、ある程度参考にするといいですね。私は自分の子どもとその友だちの会話を参考にしたり、電車の中で子どもたちの話に聞き耳を立てたりしています(笑)。
よく、「今の日本語は乱れている」と言いますが、言葉は元々移り変わるものですから、そんなに目くじらを立てることもないのでは、と思っています。とはいえ一方では、子どもたちに美しい日本語を知ってほしいということもありますから、現代風の言葉づかいをどこでどのくらい使うか、バランス感覚が肝心ではないでしょうか。

プロになるためのヒケツは?

私がカルチャーセンターの翻訳教室で教えている生徒さんたちは、みなさん本当に優秀で、プロになれる実力のある方もいらっしゃいます。ただ、絵本や児童文学の翻訳は、元々需要が多いわけではないので、目指せばいつかなれるというものでもありません。

私の場合、『ケルトの白馬』が実際に出版されるまでにだいぶ時間がかかったのですが、その間編集者に、「あの本は本当に素晴らしいですね」とさりげなく手紙を出したり、本の内容に関連したことが雑誌に載っていると、それを切り抜いて送ったりして、作品が埋もれてしまわないよう努力していました。そういったように、何か自分なりに工夫することは大切だと思います。

英語の学習はどのようにすればよいのでしょうか。

絵本の翻訳でも、文法はとても大切です。
例えば、

I remembered to say "thank you".
I remembered saying "thank you".

では、前者が「忘れずにありがとうと言った」ですが、後者が「ありがとう、と言ったのを覚えていた」ということです。

こういう文法をしっかり身につけるのに便利なのが、受験参考書です。私は近所の高校生が捨てたものを一冊もらってきました(笑)。いつも手元に置いて、たまにひっくり返してみるといいですよ。

それから、読むときは多読と精読を組み合わせるといいと思います。単に数をこなすだけじゃなくて、一冊を隅から隅までじっくり読んでいると、その作品や英文の持つよさが、本の中から浮かび上がってくるかのように感じられるものです。もちろん、精読に耐えられるだけの良質な作品を選ばなければなりませんが、私はサトクリフの作品が、まさにそれにピッタリだと思います。

今後の目標についてお教えください。

日本では絵本の研究はまだ始まったばかりで、私たちが第一世代と言えるのではないでしょうか。絵本の研究は、児童文学からばかりでなく、美術の分野、教育や保育、社会学の分野からのアプローチもあり、学際的でとてもおもしろいんですよ。絵本の研究をもっと深めていきたい、と思っています。

一方で、最近は絵本の物語を書く仕事もしています。私がテーマとするのはやはり「言葉」で、以前「あいさつ」に関する絵本を一度書いたことがあるのですが、今度は「名前」をテーマにした本が、12月に出る予定です。

私がこういう自分のやりたい仕事を始めたのは割合に遅くて、娘が小学校高学年になってから。それまでエンジンがかからなかったとでも言うのでしょうか(笑)。いつ始めても、遅すぎるということはないんだと思います。

取材・編集協力: eigoTown.com

Profile
灰島かりさん 写真

灰島 かり(はいじま かり)

国際基督教大学卒業。化粧品会社のPR誌の編集を経て、フリーライターに。夫の転勤に伴い、1994年にイギリスへ。サリー大学ローハンプトン大学院に入学し、児童文学を学ぶ。帰国して子どもの本の翻訳を始めると同時に、白百合女子大学や朝日カルチャーセンターで絵本や翻訳について教える。著書に『絵本翻訳教室へようこそ』、訳書に『ケルトの白馬』などのローズマリ・サトクリフ作品、『さびしがりやのドラゴンたち』(シェリー・ムーア・トーマス)など。

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『絵本翻訳教室へようこそ』
灰島かり 著(研究社/定価1890円)

絵本翻訳教室へようこそ 画像

カルチャーセンターの絵本翻訳講座を基に、一冊の絵本を実際に翻訳してみるというスタイルを取りながら、絵本翻訳のテクニックを解説。「文体を考える」「漢字はどれくらい使う?」など、すぐに役立つ内容がいっぱい。「受講生に一番よく聞かれること」である持ち込みの方法についても詳しく触れている。

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