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「今の素地を作ったのは、昔から好きだった国語―特に古典―であるように思います」
『ネイティブスピーカーの英文法』をはじめ、ネイティブのもつ英語感覚を伝える書籍を多数著してきた大西泰斗先生。英語学習誌やメールマガジンの執筆などでも活躍、その独特の語り口で学習者から大きな支持を得ている。独特の理論が生まれたきっかけや、大西先生ご自身にとっての英語の原点などをうかがった。 |

| 「ネイティブ的な感覚」を身につけるための英文法の理論は、どのように生まれたのでしょうか。 |

きっかけは、大学での授業です。中級レベルの学生をどうやったら引っ張り上げられるのか、教壇に立つようになってからずいぶん考えました。もちろん中級レベルですから、高校の英文法などはほとんどわかっている、大学受験もくぐり抜けてきた、だけどサッパリ英語はできない。いったい何が足りないんだろう、と。
結論から言えば、「全部」抜け落ちているんですよ。言葉が使われる状況も、感触も、何もかも抜け落ちた、骨格標本のような文法規則しか頭に入っていない。単語をある程度知っていても、それが実際どんな感触で使われるのか、一番肝心なことが抜け落ちているんです。
相手の表情、相手との人間関係、発音のされかた、その文の使われ方と前後の文脈、そうしたものが無数に折り重なって、確固とした語感が築かれる。使うべき場所がわかってくる。「形式主語」といった貧弱な規則や日本語訳を頭に入れただけでは、まともに英語を使えるわけがありません。
私は「理論」を作っているつもりはなくて、今までこぎれいに整理・整頓されてきた―そしてその結果まるで使い物にならなかった―知識を、語感の混沌の中に一度戻してあげているのです。

うーん、難しい質問ですね。というのも、英語だけ特別一生懸命勉強した記憶がないからです。得意だったのは国語と数学で、好きだったのは国語でした。
暇なとき読んでいたのはペーパーバックじゃなくて『源氏物語』とか『風姿花伝』とか。父が貿易関係の仕事をしていて、子どものころから英語や外国人にさほど違和感はありませんでしたが、正直学校の「英語」は好きじゃありませんでしたね。学校で文法を勉強しても、「言葉ってのはこんな具合に割り切れるものじゃないだろ」と思っていましたし。……それでなんで英語の先生になったのかと言われると困りますが(笑)。
大学に入る前は、国語の教師になろうと思っていたんですよ。だけど当時はテレビの「熱血教師」ドラマが全盛期で。中村雅俊とか、主人公の格好いい人はたいてい英語の先生なんですね、これが。そんなわけで志望が「英語の教師」に変わったというわけです(笑)。
実は、英語教師の夢は大学4年で終わりました。東京都の高校教員になる予定だったのですが、4年間の大学生活をまとめる意味で大学院に入学することにしたんです。
大学院5年間の言語学研究はほぼ理論的なことばかりだったので、意識的に「英語学習」したことはありません。とはいえ、生活のため英語を使うバイトをしていましたし、読んだり書いたりはほぼ英語ばかりでしたし、国際学会にお話をしに行ったりもしたので、多少の訓練にはなったと思いますが。
現在の、英語の学習書や教材などの執筆の素地を作ったのは、大学院での言語学の研究よりむしろ、昔から好きだった国語―特に古典―であるように思います。
古典文学を読むときには、よくわからない表現を類推しながらその感覚を探っていく力がどうしても必要になりますから。
ただし、言語学者の卵としてたたき込まれた「合理精神」―いつでも合理的な理由を探し、健全な議論を組み立てる―も、大いに役立っています。

DHCの通信講座「English Brain Force」には、普段やりたくてもできなかったこと―文字・音声・映像・ネイティブが感じている世界を表す3Dアニメ―などを、全部たたき込みました。「感覚」という言葉は、今では多くの教材や本で使われていますが、「感覚を伝える」という命題に、これほど真っ正面から取り組んだ教材は他にはありません。英文法全体が「一幅の絵のように」「ひとつの物語として」頭に入るのは、この教材だけかと思います。
メールマガジンも執筆していますが、「次はどんなこと言って笑わせようか」とか、そんなことばっかり考えてます(笑)。ただ、それぞれのフレーズなどについて、「実際に使えるようになるまで」ニュアンスを解説するよう、いつも心がけています。
| 翻訳家など「英語のプロ」になりたい人へのアドバイスをお願いします。 |

私もときどき遊びで詩を翻訳したりしますが、その中で思い知ったことは、「翻訳は英語を日本語にする(あるいはその逆)だけの作業じゃない」ということです。むしろ「英語を書く」能力が問われていると思います。 作者と同レベルの英文が書ける人間が読んで初めて、「なぜここではこの単語・この文型を使わなければならなかったのか」という必然が見えてくるのです。そこでようやく満足な日本語が生じる。会話文が出てくる翻訳ならさらに「英語を話す」能力すら問われるでしょう。
| 現在も続けている英語学習の方法などありましたらお教えください。 |

際立って変わったことは、あまりないと思いますよ。通勤電車でペーパーバックを読んだり、原稿に入れる絵を描いているときにBBCのラジオを聴いていたり。だけど、こんな職業だとそれが楽しめないんですよ。
ベストセラーを読んでいてもBBCを聴いていても、「この前置詞、読者は理解できるかな。うん、あそこに書いておいたから多分大丈夫なはず」とか「この目的語が前置した形、実にいいなあ。だけど読者はそこに感情が乗っていることがわかるだろうか」とか。いつも自分じゃなくて、私の本を読んでいただいている読者の目になってしまってる。これはある意味不幸だろうなって(笑)。
そうそう、他の人と違うことと言えば、ネイティブとビデオチャットすることかな。仕事で詰まったときにパソコンで「ピンポーン」すると、よく一緒に仕事をしているポール・クリス・マクベイ先生が画面に現れて「なんだよ」。これは実に便利。語感を突き詰めたいとき、どうしても音声だけでは足りないんですよ。表情が見えないと。
ビデオチャットは、思ったよりずっとリアルに会話できます。みなさんにもおススメですよ。
| 取材・編集協力: |
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東洋女子短期大学教授。筑波大学大学院博士課程修了。96〜97年オックスフォード大学言語研究所客員研究員。著書に『ネイティブスピーカーの英文法』『ネイティブスピーカーの前置詞』『ネイティブスピーカーの英語感覚』『ネイティブスピーカーの英会話』(以上研究社)、『ネイティブの感覚がわかる英文法』(NOVA)、『英文法をこわす』(NHKブックス)などがあり、海外でも多数翻訳されている。
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DHCメールマガジン
2005年7〜9月「NHK3か月トピック英会話」第2期(NHK教育テレビ)に出演予定 |


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『ネイティブスピーカーの英文法』
大西泰斗、ポール・マクベイ 著(研究社/定価1575円)
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