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Interview room

英語業界人に聞く vol.06

小林宏明さん 写真

翻訳家 小林宏明さん Translator: Hiroaki Kobayashi

『LAコンフィデンシャル』などアメリカのミステリや犯罪小説の翻訳を多数手がけてきた小林宏明さん。翻訳で得た銃に関する知識をもとに、『小林宏明のGUN講座』という本も著している。

「一度も就職したことはない」という小林さんに、英語学習法や翻訳家として成功するヒケツなどをうかがった。

翻訳家になったきっかけを教えてください。

翻訳家を目指したことは一度もありません。子どものころからアメリカのマンガや雑誌が好きで、FEN(現AFN)もよく聞いていました。大学は英文科で、英語は得意だったので、教授から70年代のロックの記事の翻訳を頼まれたのがきっかけでした。

就職はまったく考えていなくて、卒業しても『Rolling Stone』といった音楽雑誌の翻訳などをして生活していました。当時欧米の文化を日本に紹介していた植草甚一さん、片岡義男さんらとの出会いも大きかったと思います。ジャズやミステリのおもしろさを教えてもらいました。ただし最初のころはやはり翻訳だけで食べていくのは難しく、自宅で塾を開いて英語を教えてみたり、いろいろな仕事をしていましたが。

そのうち翻訳権を扱う日本ユニ・エージェンシーから単行本の翻訳の仕事を紹介されるようになり、1973年にボブ・ディランの伝記を訳しました。それから翻訳家として年間5、6冊出すくらいの仕事が続いていったんです。多いのはミステリや犯罪小説ですが、実は今まで訳した本で一番売れたのは、映画にもなった『クレイマー、クレイマー』です。


*FEN:Far East Networkの略。極東にいる米軍のための英語放送のこと。現在は名称が変わり、AFN (American Forces Network)と呼ばれている。

英語はどのように勉強したのですか?

「カッコの中に前置詞を入れなさい」といった勉強の仕方が苦手で、学校の成績はあまりよくなかったんです。でも、アメリカの文化にずっと接していて、とにかく英語の本や雑誌をよく読んでいましたね。当時ローリング・ストーンズが初来日するっていうんでさっそくチケットを買いに行って、でもコンサートが中止になってがっかりして・・・・・・なんていうこともありました(笑)。

翻訳家になってからは、片岡義男さんの訳した本を自分で訳し直したりして、文体や感性を盗むよう心がけていました。
当時はインターネットなんてありませんでしたから、資料になる洋書を求めて、よく神田神保町の古本屋街を歩いたりしたものです。大量に積まれている洋書をパラパラとめくり、裏表紙に書かれていることを読んで、どんな内容の本かパッと見極められるようになりました。本を探したり買ったりすることは、とてもいい勉強になったと思います。

『小林宏明のGUN講座』はどういうきっかけで書かれたのですか?

アメリカのエンターテイメントには銃がつきものなので、私なら銃に詳しいだろうと思った友人が、「書いてみてはどうか」と勧めてくれたんです。私自身は銃マニアでも何でもないので、翻訳家が翻訳家にとって必要な知識をまとめたつもりなんですが。

ミステリや犯罪小説を翻訳するとき、銃にまつわる用語の訳はけっこう難しいんです。例えば12-gauge shotgunという語が出てきたとき、gaugeの訳語は「口径」でいいのか、単位はミリなのかインチなのか、といった常識も辞書を引いただけではわかりません。そこでこの本には、「a slide mounted safetyは『スライド式安全装置』でいいのでしょうか?」といった、翻訳現場からの疑問への答えも載せています。

この本以来、どうも銃の専門家のように思われてしまって(笑)、『世界の銃パーフェクトバイブル』(学研)という本を共著で出し、さらに今そのパート2の執筆にかかっているところです。

ミステリの翻訳のおもしろさは?

アメリカのミステリは、昔は書きなぐるようにできあがっていた完全な通俗エンターテイメントだったんですが、今は作家個人の体験や造詣などを反映させたものも多く、エンターテイメント性とどう折り合いをつけていくか、言葉選びも含めてよく考えるようにしています。

翻訳にはできるだけ多くの断片的な知識が必要ですが、どんなに増やしたつもりでも、まだまだ知らないことばかりです。例えば最近出した『悪魔の赤毛』(新潮文庫)に、貧しいメキシコ人の少女が結婚するときは裸足(barefoot)だ、とあり、直後にthe other half of barefootとたたみかけるセリフが出てくるんですが、なんのことか皆目見当がつきませんでした。友人から、barefoot and pregnant(妊娠)というフレーズがあるのを聞いて、初めて「裸足にもうひとつ付け足すことがあるだろ」と言っていることがわかったんです。 また、小説で反社会的な人格を指すpsychopath(サイコパス)という言葉に出会ったのはもう20年くらい前になりますが、今後日本でも関心が高まっていくはず、と思ったものです。実際に世情を先取りするようなかたちで10年前にノンフィクションものの『診断名サイコパス』(早川書房)を訳せたのはうれしかったですね。

取材・編集協力: eigoTown.com

Profile
小林宏明さん 写真

小林 宏明(こばやし ひろあき)

翻訳家。1946年東京都生まれ。明治大学英米文学科卒業。在学中から雑誌記事の翻訳などを手がけ、卒業後も翻訳の仕事を続ける。ミステリ、犯罪小説、ノンフィクション等、手がけた訳書は100冊以上。主な訳書に『LAコンフィデンシャル』(文春文庫)、『多重人格殺人者』(新潮文庫)、『キリング・フロアー』(講談社文庫)など。著書に『小林宏明のGUN講座』ほか。

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『悪魔の赤毛』
デイヴィッド・コーベット 著、小林宏明 訳(新潮文庫/定価980円)

悪魔の赤毛 画像

著者は元私立探偵で、この作品が処女作。アメリカの主な文学賞2つにノミネートされた実力派だ。「言葉づかいがユニークでひねりが効いているうえ、言葉で語られない裏の心理が透けて見える」と、小林氏。

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