



実は、何かそうなるように定められていたんじゃないかと思うくらい、運命的な出会いがあったのです。
約20年前、夫はワシントンDCの世界銀行に勤務していて、夫婦二人でアメリカ暮らしをしていました。当時、シャーリー・マクレーンが自らの霊的な体験についてつづった『アウト・オン・ア・リム』が話題になっていたのですが、夫が秘書のデスクの上にあるのを見つけ、どうもおもしろいらしいというので、二人で読んでみることにしました。
そうしたら、「私たちの知りたかったことが、全部ここに書いてある!」というくらいの衝撃を受けました。夫も私も翻訳の仕事なんてしたことがなかったのですが、「ぜひこれを日本で出したい!」という思いにかられて訳し始めたところ、思いがけずいろいろなことがスムーズに動き、無事日本で出版できることになりました。
翻訳家になろうという気持ちがあったわけではなく、それ1冊でおしまいにするつもりだったのですが、出版後に大変な反響があり、またシャーリーがその後年に1冊くらいのペースで新刊を出して、その翻訳の依頼が私たちのところに来て、という幸運が重なり、1987年に夫が勤めを辞め、翻訳の仕事に専念することになりました。夫も私も、40歳すぎてからのスタートでした。

夫と私は、大学を卒業後、日米会話学院で英会話を勉強している時に知り合ったのですが、二人とも正式に翻訳を勉強したことはありません。夫は当時の大蔵省にいたのですが、海外勤務が決まったので急遽、私と結婚して一緒に海外生活をすることになりました。最初はマレーシアにいたのですが、日本の本がなかなか手に入らなくて、英語の本を片っ端から読みあさっていましたね。ハリウッド映画の裏話などを読んでいて、アメリカ人の知人に「なんでそんなdirty bookを読んでいるんだ」なんて言われたりしました(笑)。
とにかくジャンルを問わずなんでも大量に読んでいたので、そのときに英語の文章を理解する感覚が養われたのではないかと思います。
一度日本に戻ってきたとき、私はマッキンゼー・アンド・カンパニーなど外資系の会社に勤務して英語を使っていたのですが、翻訳をしていたわけではありません。ただ、夫も私も文章を書くことは昔から好きでしたね。
| 現在の翻訳の仕事はどのように分担されているんですか? |

たいてい、どちらかが全部訳して、それをもう一人のほうがチェックして、というかたちを取っています。
夫は人生訓やサクセスストーリーのようなものが得意ですが、私は物語性のある内容のほうが好きですね。仕事は一緒にやっていますが、興味の対象は結構違うんです。外国に行くときも、夫はアメリカ大好き、私は中近東などイスラムの国に引かれるものがあります。
夫は弟子を育てるといったことに興味を示したことがあり、一度下訳の人を頼んだことがありました。結局、その本はその方の訳ということで出して、夫は本の解説を書いただけでした。それ以来、そのようなことは試みておりません。私は、翻訳というのは単に英語を日本語に直すのではなく、言葉の奥にあるもの、著者のエネルギーを伝える仕事だと思っています。だから、初めから自分でそのエネルギーを感じながら、訳したいと思っています。
パソコンは10年くらい前に買って、自分たちのホームページを開いたりメールマガジンを発行したりしていますが、なぜか翻訳の原稿は今でも手書きでないとダメ。雑誌の原稿などはパソコンで書くのに、不思議ですね。
| 一番最近訳されたのも、シャーリー・マクレーンの本ですね。 |

これにも、不思議ないきさつがあるんです。
昨年の10月、私たちが、ほかの用事でサンフランシスコにいたところ、シャーリーが新刊の出版記念にセミナーを行うというので、ぜひ参加したいと思って出かけていきました。セミナーの合間にシャーリーにあいさつをしたら「この本もあなたたちが日本語に訳してくれるのでしょ?」と言われ、まだ読んでもいないのにうなずいていました(笑)。その1年後には、本当に私たちが訳して出版されたというわけです。
この『愛犬テリーに教わったこと シャーリーと小さな先生の物語』は、70歳を迎えたシャーリーが、心安らかな生き方を愛犬のテリーに教えてもらうという内容です。犬のテリーも「私のママは〜」という話し方で一人称で登場し、シャーリーの語りとテリーの語りが交互に続くようになっています。
原書では片方の文をイタリックにするという方法を取っていましたが、日本語で書体を変えると見づらくなって気になるので、シャーリーの語りは「〜だろう」、テリーは「〜なのです」という文体にして、差をつけました。イラストを入れて区別するといったアイデアを出したりもしています。
| シャーリー・マクレーンは、実際にはどういう人なのでしょうか。 |

シャーリーとは、ずっと以前、彼女が舞台公演で来日した時に会っています。彼女は日本で暮らしていたアメリカ人と結婚して、ご自身もしばらく東京で暮らしたことがあります。娘さんの名前が「サチコ」っていうんですよ。
ハリウッドで頂点を極めた人ですけれど、それに甘んじることなく大変プロ意識が高くて、日本でショーを行ったときも、楽屋で「お客さんの反応は? みんな理解してくれていた?」と、周りの人に熱心に聞いていました。
すごく好奇心が強くて勉強熱心なことでも知られています。その頃、大相撲の小錦がまだ現役でしたが、彼が楽屋に来てシャーリーにあいさつしたら、周りのお客さんそっちのけで、二人でずっと話し込んでいたのが記憶に残っています。
彼女の『アウト・オン・ア・リム』は世界で1000万部以上売れていると言われ、私たちを含め、この本をきっかけに人生が大きく変わったという人がたくさんいます。今後しばらく、あれだけの本は出ないのではないかと思います。

私たちが訳すのは、これからも今後も、精神世界の本です。
最近は、本国で出版される前から版権が売買されていて、アメリカでいい本と巡り会っても、もう訳者が決まっているといったことが多いんですが、私はそれも本にとっての一つの運命ではないかと思っています。
本には1冊ずつ運命があって、私たちの手元に届く本は、その運命によってたどり着いたのです。ですから、私たちも最初から最後まで自分たちで責任を持って訳すことで、その運命を引き受けてあげたいと思っています。
| 取材・編集協力: |
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翻訳家。1941年、静岡生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省に入省し、マレーシア、アメリカなどで海外勤務を重ねる。1987年に退官して翻訳家に。 |
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翻訳家。1943年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業。夫・紘矢とともに海外生活を体験。外資系会社勤務の経験も。夫の退官後、ともに翻訳の仕事を始める。 |
共訳に『アルケミスト』(パウロ・コエーリョ著、角川文庫)、『聖なる予言』(ジェームズ・レッドフィールド著、角川文庫)、『カミーノ―魂の旅路』(シャーリー・マクレーン著、飛鳥新社)、『心を癒す ワイス博士の過去生退行瞑想』(PHP研究所)など多数。
HP「山川紘矢・亜希子のSpiritual
World」 |


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『愛犬テリーに教わったこと シャーリーと小さな先生の物語』
Out On a Leash
シャーリー・マクレーン 著、山川紘矢・山川亜希子 訳(飛鳥新社/定価1680円)
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